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眼科治療の発展には目をみはるものがある。
しかし、完璧な手術を行っても視機能を元通りに戻すことができるとは限らず、
疾病が著しく進行した症例では視機能障害の残存は避けることができない。
この場合、残された患者の生活は高度に制限されるため、
残存視機能の有効利用と前向きな生活を送るためのサポートが大切となる。
ロービジョンケアはそのような患者を「障害を持ちながらも社会生活を営む1人の人間である」という視点で全人格的にとらえ、
病気やけがなどの障害からくる様々な不便や不都合を軽減し、克服するかを共に考えるケアのことである。
ロービジョンケアという言葉からは、拡大鏡や遮光眼鏡など様々なグッズの処方や紹介が頭に浮かぶ。
眼科医としてはいかに視機能を最大限活用できるかで頭がいっぱいである。
患者本人にとってはいかに社会生活をしていくかが重要な問題で、心理的、社会的、
経済的に手助けになるようなところに橋渡しができれば、より望ましい。
そのためにはそれぞれの専門家が情報を共有し合い、連携しサポートすることが重要である。
ロービジョンケアでは、1)ニーズの分析、2)視機能の再評価、3)行政サービスの必要書類、
4)社会資源の情報提供、5)ロービジョンエイドの紹介、6)環境整備 が行われる。
今回は4)の社会資源の情報を得る手段として、主にインターネットを活用したものと、
そこから得られた鹿児島県におけるロービジョンケアの社会資源情報、
そしてロービジョンケアのトピックスとして米国で行われているスマートサイトプロジェクトについて紹介する。
社会資源はすでにあるものだけでなく育っていくものである。 医療がうまく関わることで、これをうまく育てていくことも広義のロービジョンケアではないだろうか。 そして、育てた社会資源をうまく活用する方法として米国で行われているスマートサイトプロジェクトの日本版を提案したい。
アメリカ眼科学会(American Academy of Ophthalmology)のインターネットサイト からダウンロードして利用する視覚リハビリテーシヨンに関する情報ハンドアウトで、 視力が0.5(20/40)未満、暗点のある患者、視野欠損のある患者、 コントラスト感度の低下している患者に全ての眼科医が手渡す目的で作られている。 このハンドアウトには視覚障害に陥った患者の心理変化に配慮する文章によって、 保有視機能の活用法など生活に役立つヒントが記載されており、 視覚リハビリテーションを受けることができる施設の紹介を行っている。 そして、患者の近隣の支援施設の検索が用意にできるHelp Near You のサイトの紹介がある。
私自身、日々の眼科外来で視覚障害者の診療を行うにあたり、
ロービジョンケアの社会資源についての情報提供が十分にできていない現状に心を痛めていた。
Smart Sightにおける「ハンドアウト」のような簡単に手渡せる情報収集に有効な日本版のツールができれば、
患者にも診療者側にも福音となるであろう。
現在日本版Smart Sight™制作に向けた活動が開始されている。その成果に期待したい。