糖尿病網膜症とは-今村病院分院 眼科 土居 範仁-
1.糖尿病網膜症とは
糖尿病は、食事によって体の中に取り込んだ栄養(糖分)をうまく利用することができなくなって、血管内に糖分がたまる病気です。初期にはほとんど症状がなく、かなり悪化しても症状がでないことが あります。
糖尿病によっておこる身体の異常は、おもに糖分が血管の壁を傷つけることでおこります。 傷ついた血管が詰まったり、血管から血液の成分が漏れたりして病気になります。 まず、網膜や腎臓などの小さな血管が集まっている場所で異常がおこり、網膜症や腎症になります。 進行すると、心臓や頭の大きな血管にも異常が生じて、命の危険のある心筋梗塞や脳梗塞・脳出血などが おこります。
糖尿病網膜症は、糖尿病になってから約5~10年でおこるといわれています。 初期はほとんど無症状ですが、進行すると失明することもあります。最近糖尿病の患者さんは増えてきているため、 現在、成人の失明原因の上位に位置しています。
2.糖尿病網膜症はどうしておこる?
網膜は眼球の内側に張付いている薄い神経の膜で、明るさや色を感じる働きがあります。 糖尿病の影響で網膜の血管がもろくなって出血をおこしたり、血管が詰まって血液の流れが悪くなったりすると、 網膜が栄養不足の状態になります。これが糖尿病網膜症の起こりはじめです。この時期には、少しかすんだり、 飛び物が見えたりすることがありますが、自覚症状のないことも多いです。
さらに網膜症が進行すると、網膜に栄養を送るために新しく血管ができます(新生血管)。 新生血管はもろく破れ易く、血液の成分が漏れて膜を作ったり(増殖膜)、破れて出血をおこしたりします。 このころになると視力が低下し、かすみや飛び物もひどくなります。さらに放置すると眼内に大きな出血(硝子体出血)を おこしたり、増殖膜が網膜を引っ張って網膜剥離をおこしたりします。 ここまで進行するとほとんど見えなくなります。
3.糖尿病網膜症の進行過程
図のように網膜症は進行します。
単純網膜症の時期であれば血糖のコントロールによって正常に戻る可能性があります。 早期に発見して進行を抑えることがもっとも重要です。
4.糖尿病網膜症の治療
糖尿病網膜症は治療の方法の違いによって3つの病期に分けられます。
- 単純糖尿病網膜症:初期の網膜症で特に治療の必要はありません。 血糖のコントロールが良くなれば自然に良くなり、視力に影響することもありません。
- 前増殖糖尿病網膜症:部分的に血管が詰まって血液の流れが悪くなり、 網膜が栄養不足を起こす時期です。この時期には、新生血管発生を抑えるためにレーザー光線による治療 (網膜光凝固)が必要です。この時期になると血糖のコントロールを良くしてももとには戻りません。 治療せずに放置すると病気は進行していきます。
- 増殖糖尿病網膜症:網膜に新生血管が生じて増殖膜や網膜剥離がおきる時期です。 放置すると失明の危険があります。手術で増殖膜を取り除いて網膜剥離を直す必要があります。 この時期になると網膜のダメージが強く、手術が成功してもあまり良い視力が得られないことが多いです。
5.他のタイプの糖尿病網膜症
- 糖尿病黄斑症:網膜の中心部分(黄斑といいます)に水ぶくれが生じる状態です。 ちょうど物を見ようとする中心部分なので、すこしの異常でも非常に見えにくくなります。 糖尿病黄斑症は、必ずしも網膜症の進行度と関係せず、単純糖尿病網膜症でも起こることがあります。
- 血管新生緑内障:糖尿病網膜症が悪化して生じる緑内障です。非常に治療が難しく手術を行っても視力が 回復しないことが多いです。
6.Q&A
- Q1. 数年前に糖尿病からくる目の病気があると言われました。 その後、血糖のコントロールを十分注意し、今は内科で糖尿病のほうは問題ないと言われています。 最近、眼科に行ったら網膜症が進行していると言われた。きちんと血糖をコントロールしているのに なぜ網膜症が進行したのですか?
- A1. 単純網膜症であれば血糖のコントロールで正常に戻ることはありますが、 ある程度進行した網膜症では、血糖のコントロールが良くても進行していきます。 そのため、適当な時期に適切な治療が必要になります。もちろん、血糖のコントロールが悪ければさらに 進行は早くなります。
- Q2. 数ヶ月前から目がかすみ、1ヶ月くらい前に眼科を受診しました。糖尿病網膜症と診断されレーザー光線の治療が始まりました。治療が始まって2週間たちますが、見え方はぜんぜん良くならないだけでなく、 むしろ悪くなっています。このまま治療を続けてよいか不安です。
- A2. レーザー治療(網膜光凝固)は、網膜をレーザー光線で焼いて新生血管が出てくるのを抑える治療です。 治療そのものは見え方を良くする治療ではありません。レーザー光線によって網膜が一部痛んでしまうため、 見え方が悪くなることも少なくありません。しかし、不十分な治療で中断してしまうと、 病気がさらに進行して失明する危険があります。レーザー治療に対して不安が強い場合、 再度担当医に相談するか、担当医に相談しにくい場合は、他の医療機関に相談してみる (セカンドオピニオンと言います)のも良いでしょう。