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いつまでも目の前を動き回るゴミ、蚊、クモ、泡のようなもの、ある日突然現れて消えたかなと思うとまたどこからともなく現れる。
手で振り払おうとしても消えず、ノイローゼになりそう。
こんなことでお悩みの方は結構多いものです。
この悩みで眼科を受診される方は大変多く、女性は男性の3~4倍も受診されます。
年齢は10歳代~80歳代と広く分布しています。
目の中に炎症があり、火の粉のような炎症細胞が目の中を駆け巡る病気(ブドウ膜炎、虹彩炎)とか、
眼の中の出血(糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞など)、
胆石のように眼の中に小さな結晶が出てくる病気(星状硝子体症)など原因が特別なものもありますが、
その多くは眼の中の8割を占める卵の白身のようなゼリー(硝子体:しょうしたい)の老化によるものです。
男性と女性の間にはこのゼリーの老化に差はないのですが、女性の方が細かい変化に敏感で、
眼科を受診する勇気があるのに対して男性は見え方が悪くなったわけではないと眼科を受診することをおっくうに思う傾向があるのではないでしょうか?
このゼリーは99%が水で、1%が保湿性の高いヒアルロン酸やコラーゲンといった女性化粧品のお肌にうるおいを与える成分として知られた物質が含まれています。
10歳代からそろそろと老化が始まりますが、髪の毛や顔のしわのように毎日見て確認できる場所ではありませんから、
一定の大きな変化に到達したときのみ自覚するということになります。
敏感な人はその途中でも眼科に来られます。
この老化による硝子体の変化は専門用語で初期は経年性硝子体融解(けいねんせいしょうしたいゆうかい)、
進行すれば経年性硝子体剥離(けいねんせいしょうしたいはくり)といいます。
若い目ではゼリーは前から後ろまで密度が均一ですから、光はまっすぐ眼底に届きますが、
老化によりゼリーのなかに溶けて水になった(融解した)場所が現れます。
金魚ばちの中の空気の泡は水も泡も透明なのに泡がはっきり見えるのと同じ原理で
このゼリー内の性質の違う融解した部分がゴミのように空気中のスクリーンに投影されて飛蚊症となるのです。
これがゼリーの初期の老化現象で、経年性硝子体融解とよびます。
この段階で眼科に来られる患者さんは飛蚊症全体の約3割を占めます。
残りの7割はゼリーの老化がさらに進み、水のように溶けた場所が増えてゼリー全体がもはや球の形を維持できなくなって眼底から分かれ、
ゼリーの後ろに水がまわった状態(経年性後部硝子体剥離)がひきおこす飛蚊症です。
お祭りで買った綿あめが家に着いたらビニールぶくろはふくらんでいるのに、中の綿あめが小さくなっているのに気づくのに似ています。
ビニールぶくろが目のかべで、綿あめがゼリー、綿あめとビニールぶくろの間の空気がゼリーの裏側の水ということになります。
綿あめのふくらんでいるのは大部分が空気であり、目の中のゼリーの大部分が水であると考えると理解できると思います。
40歳代で1割、50歳代で2割、60歳代で4割、70歳代で7割の人がこの経年性後部硝子体剥離をおこしています。
これがおこりますと、視野の中心より少し耳がわのところにはっきりした影が現れ、
払いのけても払いのけても視野の中心近くをホタルのように飛び回ります。
直接の原因は剥がれたゼリーの後ろの薄い膜に丸い、
直径約1.5ミリメートルの視神経の頭から剥がれてくっついた神経組織片(乳頭前環:にゅうとうぜんかん)です。
このゴミのような目の前の浮遊物自体は視力に影響をあたえることはありませんが、ゼリーが眼底から分かれる過程で、
とくに癒着の強い場所で網膜というカメラのフイルムに相当する場所にかぎ裂きをつくる可能性が1割程度あります。
運が悪いとこの裂け目からゼリー後方の水が入り込み、網膜が剥がれる網膜剥離という病気になってしまうことがあります。
眼科専門医に詳しく検査をしてもらい、場合によっては経過をみる必要もあります。
網膜に裂け目ができてから網膜剥離になってしまうまでには時間的に数日~数ヶ月、
場合によっては何年もかかることがあります。
網膜の裂け目のうちにレーザー治療を受けると、
そこからの網膜剥離への進行は1/10程度に抑えることができると考えられていますから眼科専門医とよくご相談下さい。
この飛蚊症は将来どうなってゆくのでしょうか?
乳頭前環はゼリーが縮んで前の方に移動するため、5~10年もすると影が大きく、薄くなって気にならなくなります。
もし、白い壁や砂浜の前で仕事をしたり、まぶしい日に車を運転するときはサングラスをかけると目の前のチラチラする影がうすくなり楽です。
どうぞお試し下さい。